ヴィスビーの夕陽

スウェーデン本土から海を渡って三時間。 フェリーのデッキから水平線を眺めていると、絵本のような街が現れる。 その街の名は、ヴィスビー。 ゴットランド島という小さな島の中にある小さな街。 街の中には城壁で囲まれた旧市街があり、世界遺産にもなっている。 8月の終わり頃。日本人は私の他に1人も見かけない。街を歩きながら、静かに澄んだ空気を体に吸い込む。 目指すのは聖ニコラス聖堂。 聖堂の横の階段を上ると、丘から海を見渡せるのだ。 日も落ち始めた午後4時。 息を切らし、丘にたどり着く。 後ろを振り向くと、私は短く叫んだ。 これまでの人生の中で一番美しい景色を、今目にしているのだという実感で足がすくむ。 オレンジ色の屋根が並んでいる。 射し込む強かな光。包み込む柔らかな光。 青い空は、下になるほどピンク色になる。 そしてそのさらに下に、静かに海がいた。 ピンクの空を横切る飛行機雲が、そのまま真っ直ぐ海へ入って行くかもしれない。そんな妄想も自由に働ける、ここにいる間は。 許される限り、この眺めに目を奪われていたい。 生まれて初めての景色を時に奪われるのが悔しい。 やがて光が弱くなり、オレンジ色の屋根が暗くなっても、私は駄々をこねる子供のように、水平線の彼方を見つめ続けた。 f:id:goodoso:20170421003701j:plain